こんにちは。
今回は人物紹介【後編】です。
最後の一人は「シープラート」。デートのお兄さんですね。
第1話から14話までひとっっっことも彼の話は出てこなかったのに、最終回でかなり重要な感じで登場します。超有名な人物なので、タイの方にとっては不思議ではなかったかもしれません。でも何も知らない日本人の私にとっては「これは一体…?」という感じでもあったので、しっかり目に調べてみました。ネタバレを含みますので、知りたくない方はスルー推奨です!
今回も【前編】【中編】と同様の人物相関図を貼っておきますので、参考にしてくださいませ。左端中段あたりにいるのがシープラートです。
夢か現実か?謎の男シープラート
とても重要そうな役回りなのに最終回だけに登場する人物がいます。それは宮廷詩人のシープラート。なぜ彼が最終回だけに登場し、しかも夢なのか現実なのかという曖昧な表現しかされていないのか。ドラマを見て、なんだか腑に落ちないと思った方もいらっしゃるかもしれません。
実はこのシープラート、宮廷詩人として歴史に名を残してきましたが、20世紀後半からはほとんどの学者がその実在を否定しているとのこと。現在は、ほぼ架空の人物であろうと言われています。
そのため『運命のふたり』の脚本家はドラマの登場人物として組み込むことに積極的ではなかったようです。結果、最終回のみに、夢か現実か分からない存在として登場させたということです。
アユタヤの歴史においてどんな人物とされていたのか?
それでは、以前は「”タイ文学の黄金時代”を象徴する天才的な宮廷詩人」と言われてきたシープラートがアユタヤの歴史の中でどのように描かれてきたのか見ていきましょう。
父、幼い「チャオシー」の才能に気づく
彼にまつわる説話は次のようなもの。彼が幼い頃(7歳、9歳、12歳等いろんな説あり)、父親であるホーラーティボディ卿はナライ王からどうしても思い付かない詩の一節を埋め、完成させるよう命じられます。しかしその場でその命を完了できなかったホーラーティボディは詩を自宅に持ち帰ります。(残業を家に持ち帰るとかアユタヤ時代にもあったんですね〜)
水浴びから戻ると、仏間に置いておいたはずの大切な書類(というか黒板のようなもの)の位置が動いています。息子がイタズラしたか?と見てみると、なんと空いていた詩の一節が完璧な形で埋められているではないですか。それは幼いチャオシーによって書かれたものでした。ホーラーティボディはその詩をそのまま王に献上します。王は大変気に入り、チャオシーを宮廷詩人として迎え入れようとします。
王と父との約束
ホーラーティボディ卿は未来を読むことができたので、息子の命が長くないことを知っていました。宮廷に仕える者たちが大きくない失敗により首を切られるのを見てきたホーラーティボディは、「今は勉学に励ませたい」と息子の入廷を断りました。そしてチャオシーが15歳になるまで様々な学問を学ばせました。
彼が15歳になったとき、ホーラーティボディは「どうか息子が何か過失をしても命を奪わないでください」という要望とともにチャオシーを宮廷に送り出します。王は父の願いを聞き入れ、チャオシーを宮廷に迎えました。宮廷詩人となったシープラートは才能を発揮し、王がどこへ行くにもお供に連れて行くほどの寵愛を受けるようになります。チャオシーがあまりにもユーモアと知恵を利かせた詩を作るため、王から賜った名前が「シープラート」。「偉大なる学者」という意味の名前です。
王宮でのシープラート①
ナライ王から寵愛を受けていたシープラートですが、ある年のロイクラトン祭りの夜、失態を犯してしまいます。酒に酔った彼はナライ王の第一側室ターオ・シーチュララック(ペートラチャの妹君!)に近づき、隣に並ぼうとしました。一役人が王の側室の隣に並ぶのは身分を弁えない無礼な行動です。(カラケーがチャンパ様の隣に並んでしまい叱られるシーンがありましたよね。)
ターオ・シーチュララックは自分を天上の月に、シープラートを地上のウサギに例えた歌を詠み、彼の行動を咎めました(歌で咎めるなんて雅でございます。)それに対し、事もあろうかシープラートは「月もウサギも所詮は同じ地面の上にあるものだ」と歌を詠み返しました。怒りの火に油を注がれた側室は、王にこのことを報告し、罰を与えるよう願い入れをしました。そしてシープラートは王宮の牢屋へ入れられることになったのです。
その後も側室からの嫌がらせは止まず、とうとう死刑を受けるところまで行ってしまいますが、そこでナライ王とホーラーティボディ卿との約束が効力を発揮しました。王はシープラートを死刑にはせず、タイ南部のナコンシータマラートへの追放だけで収めることにしたのです。タイ南部の暑さはアユタヤ以上に厳しく、当時は衛生環境も良くありませんでした。日本でいうところの島流しのようなものですね。
参考サイト:
王宮でのシープラート②
宮廷詩人となったシープラートの物語については、また別の説があります。
それは、詩作の才能を発揮し王から愛された彼はイケイケドンドンで宮廷内の女性たちに詩を送り、ちょっかいを出しまくったという説。それで罰を受けるため王宮の牢屋へ入られることになってしまったというんですね。牢屋から解放されても反省の色は無く、今度は王の第一側室であるターオ・シーチュララック(しつこいですがペートラチャの妹)に詩を書き送ります。いくら王のお気に入りとはいえ、一介の役人が王の側室に愛を囁くなど無礼極まりない行為です。ターオ・シーチュララックは腹を立て、このことを王に伝えます。
一線を越えるシープラートの行動にさすがの王も怒りました。本来なら死刑に処されるべき罪ですが、ホーラーティボディとの約束を守り、タイ南部のナコンシータマラートへ追放するに留めたということです。
説①の雅やかな雰囲気に比べてずいぶん俗っぽい説ですよね。『運命のふたり』に登場したキャラクターとはかけ離れているような…。
参考サイト:
※1 wikipediaはタイ語の記事と英語の記事で書かれていることが全く違うので、見比べてみるのも楽しいかも知れません。タイ語の方では、シープラートはナライ王時代ではなく、スリーイェンタラーティボディ王(ソラサック伯爵です!)の時代の人だと書かれており、これもまた有力な説のようです。
※2 リンクを貼った参考サイトは全部タイ語のサイトなのですが、「こういうニュースサイトや動画から情報を持ってきてるよ!」という報告も兼ねて貼らせていただきました。
Google翻訳だと変な感じにはなりますが、なんとなく読めるくらいにはなるかと思います!
流刑地ナコンシータマラートで
では、ナコンシータマラートに追放されてからのシープラートはどんな運命を辿ったのでしょうか。ドラマでは「ナコンシータマラートから忍んで父親に会いに来た」という設定になっていましたね。
幸い、ナコンシータマラート知事は詩が好きで、シープラートは知事の邸宅へ度々招待されるようになりました。そのことで、周りの人たちからやっかみを買ってしまいます。人々は「知事の奥さんとシープラートは関係を持っている」と噂を流し、彼を陥れようとしました。
噂を信じた知事は、すぐに彼を処刑することにしました。シープラートが王から寵愛を受けていたことも、王と彼の父との約束のことも知らなかったのです。処刑台に縛られたシープラートは足の指先で地面に詩を書きました。
「この大地が証人である 私が間違っているのなら喜んで殺されよう
もし私が間違っていなければ 私を殺すこの剣は貴方の元へ戻り あなたを殺すだろう」
(※意訳です)
これは彼のかけた呪いだったのでしょうか。ちょうどその頃、ナライ王は「詩を書くためにはやはりシープラートの力が必要だ」と、彼を宮廷に呼び戻そうとしていました。
シープラートの死を知った王は知事の身勝手な行動に怒り、シープラートが処刑された剣で知事を処刑したということです。
教科書にも載っていた偉人
とまあ伝説的な存在のシープラートですが、タイ人の友人(アラフォー)に聞いた話だと、教科書に彼の物語が載っていたとのこと。今の教科書ではどうなのかは分かりませんが、どちらにせよこのドラマが放送される以前はデートよりも断然有名人だったようです。(デートが歴史資料に詳しく残っているような存在だったらこんな自由なドラマにはなっていないでしょうけれど。)
現在の研究では存在がほぼ否定されているということですが、
・彼の作品だと言われていた詩の筆跡が他の詩人のものだと解明された
・使われている文字がアユタヤ時代よりもっと新しい文字だった
・彼について書かれた一番古い書物はラタナコーシン朝(現王朝)に入ってから書かれたもの
など、色々な理由があるようです。
この現代の見解については「王宮でのシープラート①」に貼ったyoutubeの中で詳しく解説されています。このユーチューバーさんも「実在しないなら、私たちが小さい頃から学んできたことって何だったの!」って言ってます笑
Netflix版でカットされていたシーンについて
ここで少し、ドラマの話に戻ります。
いろんな説があり、実在していない可能性が高いということで、夢のような現実のようなシーンが作られたシープラート。中でも私が好きなシーンを紹介したいと思います。
それはチョイとシープラートの別れのシーンです。
このシーン、Netflix版(タイでの地上波放送版)ではとても短いシーンになっていたのではないかと思います。YouTube版ではもっと長く2人が話をするシーンになっています。
夜、ひっそりと流刑地ナコンシータマラートに戻るシープラートを見送りにきたチョイは、涙を堪えきれず「一緒に連れて行ってください」と願い出ます。
南部での生活は厳しいと言うシープラートに対し、構わない、シープラート様のお世話をしたいんだと引き下がらないチョイ。「貴方が罪に問われるようなことはしていないと分かっています。」とシープラートに伝えます。シープラートは自分をまっすぐに慕うチョイの気持ちに揺らぎながらも、「父上亡き今、屋敷には女性ばかりが残されている。お前がみんなを守るんだ。そしてしっかり母と弟デートに仕えろ。」とチョイを諭します。
チョイは主人からの最後の命(めい)を全うする道を選ぶのでした…。
涙を堪え、幼い頃から仕えた主人を見送るチョイの姿が胸を打つ、本当に素晴らしいシーンだと思います。YouTubeのURLを貼っておきますね。ご興味あれば観てみてください。(件のシーンは3:10あたりから)
またこのやり取りの中で、シープラートは「カラケーに渡してくれ」とチョイに一編の詩を託します。その詩は、ナライ王の詩の一節を幼い彼が埋めたという、あの有名な詩でした。
チョイから受け取った詩を読み、シープラートが帰ってきたことを確信したカラケーは彼の帰還をとても喜びます。おそらく彼の運命が変わったのかもしれないと思ったのでしょう。
しかし再びナコンシータマラートに戻ってしまったと聞いたカラケーは「戻ってはいけない」と慌てます。彼がナコンシータマラートに戻ることは、すなわち処刑されることを意味するからです…。(カラケーとチョイのシーンは同じ動画の15:00あたりからです)
チーパカオ師もいつも言ってましたもんね。「起こることは起こるものだ」と。運命って非情です。
シープラートを演じたのは?
シープラートを演じたのは、カンタナイ・チューンヒラン Kandanai Chuenhirun(愛称ドリーム)。ドラマ内では涙と苦悩の表情しか見ることができませんでしたが、インスタを見てみると優しそうな笑顔が素敵です。2021年現在34歳、ナコンサワン出身で、3ch所属の俳優さんです。
https://www.instagram.com/dream_kandanai/?hl=ja
おわりに
3回に分けて詳しい人物紹介をしてきましたが、史実と言われていることとドラマ内だけでの出来事の区別が難しい部分もあり(そこがハッキリ分かれてたらドラマとして成立しないわけですが)、読みづらいところもたくさんあったかと思います。
分かる範囲で「史実」と「ドラマ」の区別をしつつ書いたつもりですが、ご指摘などございましたらどしどしコメントいただけたら幸いです。
それぞれの人物の史実を調べつつ、ドラマを見直していると、つくづくこのドラマはセリフも素晴らしいし音楽も素晴らしいし、最高のドラマだなと思いました。
いつかまたどこかの媒体で配信されることを願って、その時のために「折り畳み機能(ネタバレ部分を隠すヤツ)」の勉強をしたいと思います!笑
では、長々とお付き合いいただきましてありがとうございました!